目的
糖尿病は生活習慣病の一つであり,国が定める重要疾患の一つに位置付けられている.糖尿病有病者と糖尿病予備群は合わせて約2,000万人いるといわれている.そのため,数多くの糖尿病薬や健康食品が開発されてきている.現在用いられている高血糖(糖尿病)モデル動物は自然発症モデル,遺伝子改変モデル,高脂肪食を用いたモデルが多い.しかし,自然発症モデル,遺伝子改変モデルは高価であり,高脂肪食法は餌が特殊であり,また交換頻度が多く実験者の手間がかかる.そこで,一般的に使用されている動物を用い,簡易に肥満・高血糖を発症するモデルを開発した.
方法
マウス,C57BL/6J,雄
9週齢
水飲水群,20%グルコース飲水群,50%グルコース飲水群を設けた.飲水投与は28日間実施した.
水飲水群,20%グルコース飲水群,50%グルコース飲水群,各群10例
体重,摂餌量,精巣周囲脂肪,腎周囲脂肪, T-Cho,TG,NEFA,血糖値,HbA1c,インスリンとした.血糖値,体重は毎週1回,解剖時に採血後,脂肪を採材した.血液は4℃,4000rpm,20分遠心し,血清を採取した.
血糖値の測定は測定前1時間に給水瓶を取り外し直前のグルコース飲水の影響を取り除いた.
平均値±標準誤差で表し,統計処理は水飲水群との間でt検定(両側検定)を実施し,有意水準は5%以下とした.
結果
1. 体重
体重はグルコース濃度に依存し増加した.20%グルコース投与群は4週目で有意な増加が認められ,50%グルコース投与群は1週目から4週目まで有意な体重増加が認められた.
2. 摂餌量
グルコース飲水群は水飲水群と比較して摂餌量は有意に低下した.この摂餌量にはグルコース濃度による差は認められなかった.
3.脂肪重量
精巣周囲及び腎周囲共に脂肪重量がグルコースの濃度依存的に増加した.
4.1 総コレステロール
グルコース濃度に依存し,有意な増加が認められた.
4.2 中性脂肪
グルコース飲水による影響は認められなかった.
4.3 遊離脂肪酸
グルコース飲水により有意な増加が認められた.
5.血糖値
グルコース投与群が水投与群と比較し,低値を示した.20%グルコース投与群では有意差が認められた.
6.HbA1c
解剖時に測定したHbA1cはグルコース濃度に依存して水投与群と比較し,有意な高値を示した.
7. インスリン濃度
グルコース飲水群では低値傾向を示したが,有意差は認められず,グルコース濃度に依存した反応ではなかった
考察
マウスに20或いは50%グルコースを飲水として与えることにより体重がグルコースの濃度依存に増加することが示された.この時内臓脂肪(腎周囲及び精巣周囲)も有意に増加していたことから,血中グルコース濃度が上昇し,余分なグルコースが脂肪酸に変換され脂肪へと蓄積された結果と考えられる.
血清中の総コレステロールはグルコース濃度に依存し有意な増加が認められており,中性脂肪には有意な増加が認められていない.このことから本病態は高コレステロール血漿を呈していると考えられる.また,中性脂肪が正常値であり,遊離脂肪酸が有意な増加を示していることから,中性脂肪の分解は正常であり,遊離脂肪酸が増加していると考えられる.
血糖値はグルコース飲水の影響を除外する目的で摂水できないようにした時の値を測定した.その結果,血糖値はグルコース飲水群の方が水飲水群よりも低い傾向を示している.この原因は不明であるがグルコース飲水群では摂餌量が水飲水群の50%以下(水飲水群約4g,グルコース飲水群約1.5g)であることから,水飲水群では摂餌の影響が残っている可能性があり,ブドウ糖飲水群では摂餌の影響がないことが考えられる.血糖値の上昇は認められなかったが,長期の血糖値の上昇過程の指標であるHbA1cの値はグルコース濃度に依存し,水飲水群と比較して有意に増加しており,グルコース飲水により血糖値が高く維持されていたことが示されており,高血糖を呈していることが示されている.また,db/dbマウスなどこれまでの糖尿病モデルではHbA1cの値が8%と高く,スクリーニングや薬効の緩やかな健康食品の試験に用いるには不適であった.しかし,本モデル動物では5%と緩やかな高血糖状態であることから,スクリーニングや健康食品の薬効試験に用いることに適していると考えらえる.
インスリン値には有意差は認められないものの,低値傾向を示している.測定時の血糖値が低いことからインスリン値は高いと予想していたが,低値傾向を示しているのは,HbA1cが高いことから,常に高血糖状態を呈していることからインスリンが常に分泌されており,生体で利用されているため分泌が間に合わなくなっている可能性が考えられる.また,遊離脂肪酸が有意に高いことからもインスリン感受性が低下していく途中段階の可能性もある.28日間ではなく,更に長い期間実施することにより,肥満及び糖尿病が悪化し,ヒトの糖尿病に似たモデルになり得ると考えている.
まとめ
今回,マウスに20或いは50%濃度のグルコースを飲水に利用することにより肥満・糖尿病マウスを作製することに成功した.
肥満は摂餌量が減少しているにもかかわらず,体重増加を示し,その肥満は内臓型肥満であり,高コレステロール,高遊離脂肪酸血症を呈するモデルであった.
また,定期的な測定においては高血糖を示していないが,高HbA1cを呈しており血中内で高血糖状態が長く続いているモデルであった.また,その高HbA1cの値は約5%と他の糖尿病モデル動物(約8%)と比較し低く,スクリーニングや薬効が緩やかな健康食品などの試験系として適している.
以上のことから,グルコースを飲水させることにより,肥満及び高血糖モデルの作製が可能であることが示された
自社開発技術の紹介
小動物
慢性腎不全モデルラットの作製
-腎動脈分枝結紮法-
マウスを用いた耐糖能試験
-OGTT-
坐骨神経切除による腓腹筋,
ヒラメ筋,足底筋に対する影響
慢性腎不全モデルラットの作製
-アデニン誘発慢性腎不全モデル-
デキストラン硫酸ナトリウム誘発
潰瘍性大腸炎モデルの作製
マウスの無麻酔経時採血方法の検討
‐頚静脈(鎖骨下静脈)‐
経口脂質負荷試験(OLTT)を用いて
新規肥満・糖尿病マウス作製法を用いた
肥満・糖尿病予防効果(特許出願中)
新規肥満・糖尿病マウスの作製(特許出願中)
慢性腎不全モデルマウスの作製
‐アデニン誘発慢性腎不全モデル(1)‐
慢性腎不全モデルマウスの作製
‐アデニン誘発慢性腎不全モデル(2)‐
大動物
低用量STZ誘発性糖尿病
モデルブタの作製
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