EXPERIMENT
動物実験の受託・委託・代行サービス

新規肥満・糖尿病マウス作製法を用いた肥満・糖尿病予防効果(特許出願中)

目的

 糖尿病は生活習慣病の一つであり,国が定める重要疾患の一つに位置付けられている.糖尿病有病者と糖尿病予備群は合わせて約2,000万人いるといわれている.そのため,数多くの糖尿病薬や健康食品が開発されてきている.現在用いられている高血糖(糖尿病)モデル動物は自然発症モデル,遺伝子改変モデル,高脂肪食を用いたモデルである.しかし,自然発症モデル,遺伝子改変モデルは高価であり,高脂肪食法は餌が特殊であり,また交換頻度が多く実験者の手間がかかる.そこで,一般的に使用されている動物を用い,簡易に肥満・高血糖を発症するモデルを開発し,既存の抗糖尿病薬が予防効果を有するかを評価した.

方法

動物

マウス,C57BL/6J,雄

マウス 雄

週齢

7週齢

術式

飲料水に水を飲水させる群および50%グルコースを飲水させる群を設け,水飲水群には注射用蒸留水を経口投与し,50%グルコース飲水群には注射用蒸留水を経口投与する群,抗糖尿病薬であるSitagliptin(DPP-4阻害薬)を3mg/kg,10mg/kgを経口投与する群を設けた.投与は28日間実施した.

群構成

水飲水+水投与群,50%グルコース飲水+水投与群,50%グルコース飲水+Sitagliptin 3mg/kg投与群,50%グルコース飲水+Sitagliptin 10mg/kg投与群

測定項目

体重,28日間投与後翌日に経口糖負荷試験,HbA1cを測定した. 経口糖負荷試験は試験実施前に一晩絶食し,すべての群の水を通常水に交換した.糖にはグルコースを使用し,2g/kg/10mLの用量で投与した.

データ処理

平均値±標準誤差で表し,統計処理は水飲水+水投与群と50%グルコース飲水+水投与群の間はt検定(両側検定)を実施し,50%グルコース飲水+水投与群と50%グルコース飲水+Sitagliptin投与群との間ではDunnett検定を実施した.各統計処理とも有意水準は5%以下とした.

結果

1. 体重

 体重は水飲水+水投与群と50%グルコース飲水+水投与群の間では50%グルコース飲水群が有意に体重の増加が認められた.この50%グルコース飲水の体重増加作用をSitagliptinは濃度に依存して抑制し,10mg/kg投与群では有意差が認められた.

体重の結果グラフ

 2. 経口糖負荷試験

 50%グルコース飲水+水投与群は水飲水+水投与群と比較して,グルコース投与後0,5,1時間で有意な血糖値の増加が認められた.これは50%グルコースの飲水により耐糖能異常が起こっていることを示している.また,50%グルコース飲水+Sitagliptin投与群はグルコース経口投与前で血糖値に有意な減少が認められ,更にグルコース投与後0.5及び1時間で有意な増加抑制が認められた.これはSitagliptinが50%グルコース飲水により起こった耐糖能異常を有意に改善したことを示している.

経口糖負荷試験の結果グラフ

 3.HbA1c

 経口糖負荷試験終了後HbA1cを測定した結果,50%グルコース飲水はHbA1cを有意に増加させ,Sitagliptinは用量依存的にその増加を抑制することが示された.

HbA1cを測定した結果グラフ

まとめ

マウスに通常水の代わりに糖溶液を飲水させることにより,肥満及び高血糖状態が維持され,肥満・糖尿病モデルマウスの作製が可能であることを報告した.

 今回,モデル作製の段階で抗糖尿病薬である薬物を経口投与することにより,肥満及び高血糖状態への影響を確認した.

 50%グルコースを28日間飲水させることにより,有意な体重増加を示し,高血糖状態の指標であるHbA1cが有意に高値になることが示され,経口糖負荷試験により耐糖能異常が起こっており,肥満・糖尿病モデルマウスが作製されていることが示された.

 肥満・高血糖モデルマウスにDPP-4阻害薬であるSitagliptinを毎日経口投与した.その結果,Sitagliptinにより体重増加抑制が認められ,耐糖能異常の改善,更に高HbA1cの改善を示した.DPP-4阻害剤は糖代謝にかかわるホルモンであるGLP-1の代謝を抑制し,血中のGLP-1の減少を抑制し,糖代謝を改善させる.また,GLP-1作動薬は肥満治療薬として認可(アメリカなど)されていることから,体重抑制が認められたものと考えられる.ただし,GLP-1の肥満抑制は摂食抑制と推察されているが,本試験系では摂餌量はグルコース飲水により半分以下に減少していることから,GLP-1の抗肥満作用は摂食抑制によるものではない可能性を示唆するものであった.

以上のことから,本試験系が抗肥満薬及び抗糖尿病薬の評価に適していることが示された.

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