目的
潰瘍性大腸炎は原因不明の腸に炎症を起こす炎症性腸疾患(IBD)の一種であり,大腸粘膜にびらん,潰瘍が発生する自己免疫性疾患と考えられており,日本においては「指定難病」に定められている.現在でも特効薬はなく,症状を抑える対症療法薬を使用し,緩解に誘導し,緩解を維持する薬物療法により再燃させないことが目標とされている.しかし,これまで用いられてきた薬物に対して効果が不十分或いは耐性を持つことがあり,さらなる薬物の開発が求められており,潰瘍性大腸炎のモデルは必要とされている.
そこで,デキストラン硫酸ナトリウム(以下DSS)水溶液を飲水させることにより潰瘍性大腸炎モデルを作製し,その作製したモデルに既存の緩解導入薬であり免疫抑制薬であるタクロリムス(TCL)の効果を検討した.
方法
C57BL/6J オス
7週齢
Control群(水道水+CMC水溶液p.o.) , 2%DSS群(2%DSS水溶液+CMC水溶液p.o.) , 2%DSS+TCL群(2%DSS水溶液+TCL10mg/kg p.o.) 各群4例
飲用水としてControl群は水道水,2%DSS及び2%DSS+TCL群は2%DSS水溶液を8日間自由飲水させた.またControl群には3%CMC水溶液, 2%DSS群は3%CMC水溶液, 2%DSS+TCL群はタクロリムス 懸濁液(10mg/kg)を毎日10mL/kgの容量を経口投与した.
期間中体重,飲水量,摂餌量,便の状態を毎日観察した.体重,糞便,血便(潜血含む)は基準に従いスコア化し,その合計を病態スコアとした.潜血便は目視できないため,ルミノール液を用いて判定した.最終日に採血し,貧血の程度を確認するため赤血球数を測定した.また大腸を摘出し大腸長の測定を行った.
結果
2%DSS溶液を8日間飲水させることにより,潰瘍性大腸炎モデルを作製することが出来,これまでの報告通り,大腸の長さの短縮,病態スコアの増加(体重の減少,糞便の状態等)が認められた.また,赤血球数を測定することにより,明確な貧血も確認されている.
陽性対照薬としてのTCLを経口投与することにより,体重減少,便の状態などの病態スコアが改善され,貧血症状,大腸長の短縮の抑制を確認することが出来た.
まとめ
DSSを溶解した飲用水により潰瘍性大腸炎を作製するプロトコールはいくつかあり,DSSの濃度は2~5%が多く使われている.弊社で実施した方法では2%のDSSを飲水させることにより8日間で十分な潰瘍性大腸炎になることが示された.また,今回実施した実験方法で陽性対照薬であるタクロリムスの効果が確認でき,今回用いたDSS濃度が薬効を確認するために適切な濃度であることが示されている.
2%DSS群及び2%DSS+TCL群では5日目から体重が減少する傾向が認められ,6日目以降では対照群と比較し有意な体重の低下が認められた.また,体重の絶対重量では2%DSS群が2%DSS+TCL群と比較し7日目で有意な体重の低下が認められ,体重変化率では6日目から有意な減少が認められており,TCLが2%DSSによる体重減少を抑制していることを示している.
また,一般状態としては2%DSS群では摂水摂餌量の減少,うずくまり等の一般状態の低下が認められた.2%DSS+タクロリムス群は5日目以降,体重は減少しているが摂水摂餌量の減少や一般状態の低下は認められなかった.
*: p < 0.05,**: p < 0.01 vs 対照群(t検定)
#: p < 0.05 vs 2%DSS(t検定)
体重/ 0:≧98.01% 1:98.00〜95.01% 2:95.00〜90.01% 3:90.00〜85.01% 4:≦85.00%
糞便/0:正常な便 1:形のある軟便 2:形の崩れた軟便 3:下痢 4:便なし
潜血,出血/0:潜血なし 1:潜血あり 2:出血痕あり 3:常に出血
病態スコアはDay2から2%DSS飲水群は対照群より高い数値を示し,Day4よりさらに病態が悪化する傾向が認められ,対照群と比較し有意な高スコアであった.しかし,TCLの投与はその病態悪化を有意に抑制した. 糞便の性状に関しては最終日までに2%DSS群はすべての個体に下痢,肛門から出血が確認出来たのに対し,2%DSS+タクロリムス群は軟便,潜血はあったが下痢や出血は認められなかった. *: p < 0.05,**: p < 0.01 vs 対照群(U検定) #: p < 0.05 vs 2%DSS(U検定)
2%DSSは大腸を対照群と比較して有意に短縮させ,TCLはその短縮を抑制した.
**: p < 0.01 vs 対照群(t検定)
貧血の確認のために赤血球数を測定した結果,2%DSSの飲水により赤血球数が有意に減少していた.このことは貧血を意味しており,TCLはその貧血を抑制することが示されている.
**: p < 0.01 vs 対照群(t検定)
潜血は肉眼で観察することが出来ないため,本試験ではルミノール反応を利用し,潜血の有無を確認した.潜血反応はルミノール溶液100μLと糞便をボルテックスを用いて混和することにより行い,発光の有無により判別した.
2%DSS群は2日目以降,すべての個体で潜血が認められたが,2%DSS+タクロリムス群は5日目からすべての個体に潜血が認められた.
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