マウスの無麻酔経時採血方法の検討‐頚静脈‐ 経口脂質負荷試験(OLTT)を用いて

目的

ラット・マウスの採血部位として尾静脈,頚静脈(鎖骨下静脈),眼窩静脈叢,心臓などが主に使用されている.これらの部位のうち眼窩静脈叢及び心臓に関しては全身麻酔が必要であり経時採血には向かない.また,尾静脈からの採血は採血量が少なく,溶血の可能性も高いことから,ラットでは無麻酔下での経時的採血には頚静脈(鎖骨下静脈)が主に使われている.
しかし,マウスでは経時採血時は頚静脈(鎖骨下静脈)での採血は一般的に行われていない.頚静脈(鎖骨下静脈)からの採血を実施する場合は,ほとんどが麻酔下,或いは採血用器具を埋め込んで実施されている.麻酔下で実施する場合は経時的採血には不向きであり,器具を埋め込む方法は費用及び手間がかかる.そこで無麻酔下で保定し,頚静脈(鎖骨下静脈)から採血する方法を検討した.
実験として経口脂質負荷試験(OLTT)を実施し,採血した血漿を用いて中性脂肪(TG)の測定を行った.

方法

動物

マウス,ddy系,雄

週齢

8週齢

投与構成

蒸留水+オリーブオイル,コレスチミド(500mg/kg)+オリーブオイル

例数

各群8例

一晩絶食したマウスに蒸留水或いは高脂血症薬であるコレスチミド500mg/kgを経口投与し,直ちにオリーブオイルを10mL/kgを経口投与した.採血は無麻酔下で保定し,頚静脈(鎖骨下静脈)から行った.採血は投与前,投与後1,2,3及び5時間に経時的に約30uL採取した.血液はヘパリン加血液とし,遠心分離後血漿を採取した.
測定項目は中性脂肪(TG)とし,市販のキット(Wako)を用いて測定した.

まとめ

マウスの採血には尾静脈を用いることが多いが,30uLの血液を得るためには絞り出すような方法が必要であり,経時的に採血することは容易ではなく,溶血を起こすことが多い.そのため,マウスを無麻酔で保定し,採血部位を頚静脈(鎖骨下静脈)で実施することにより,30uL程度の採血であれば経時的に可能であり,溶血も少なく必要量の血漿を得ることが出来ることが分かった.また,単回採血であれば50~100uL程度の採血も可能であり,経日的な採血法としても利用可能で,長期試験における生化学的パラメーターを同一マウスで測定が可能になる.
今回,投与前,投与後1,2,3及び5時間の5ポイントで実施したが,採血は問題なく実施できた.しかし,採血量が30uLを超えてしまう場合もあり,動物への負担は大きいと思われ,投与後5時間目では若干弱っている動物も見受けられた.
採血した血液を用いて実施したOLTTでは,Olive Oilを経口投与することにより,TGは上昇し,投与後2~3時間でピークを示した.残念ながら,正常値に戻る時間までの測定は出来なかったが,測定時間を延ばす,或いはオリーブオイルの投与量を10mL/kgから5mL/kgのように投与容量を減らすことにより対応が可能と考えられる.OLTTは経口糖負荷試験(OGTT)とは異なり,簡易測定装置がないため,吸光度を用いる測定キットでTGを測定する必要がある.そのため経時的な採血が必須である.頚静脈(鎖骨下静脈)からの採血が出来れば,OLTTも実施可能であることが示され, OGTTのように正常動物を用いてOLTTを実施することにより高脂血症薬等のスクリーニングが実施できることになる.
今回,高脂血症薬であるコレスチミドの500mg/kgの投与を行った.コレスチミドは陰イオン交換樹脂であり,投与することにより胆汁酸に結合し,胆汁酸を再吸収させないようにする効果がある.胆汁酸の再吸収を抑制するため血中コレステロールを低下させるが,TGは低下させないと言われている.今回の結果からもTGの上昇に対する抑制効果は認められなかったことから,オイル成分を吸着する効果はないと思われる.

経過グラフ
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